ムジーク

勝手気ままに綴る音楽ブログ

或るシュルレアリストの午後 - 君島大空『午後の反射光』レビュー

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レビューって難しい。レビューを書く度にそう思う。それに加えて、今から数週間前に初めて名前を聞きましたレベルのアーティストについて綴ろうとしている。浅はかな知識で挑むものだから緊張する。どうか甘めにみてほしい。

 

最近ツイッターでよく目にするシンガーソングライターの名前があった。

 

君島大空

 

本名だそうだ。美しい名前だと思った。しかし、あまりに賛美されているものだからあえて聴かないでいた。(変な意地を張って。)

 

ふとリツイートで流れてきたジャケット写真。シュルレアリスムあるいは構成主義(どちらも20世紀の芸術運動)を思わせるようなコラージュ。内容を読み、あの君島大空のデビューEP『午後の反射光』だと知る。

私はこういうアートワークに弱い。

やはり聴いてみるか、と『午後の反射光』を聴いた。

 

透き通った中性的な歌声と妙に落ち着く心地良いメロディー。夢の中にいるような感覚に襲われる。

 

一曲目のinstrumental「interlope」は美しいギターとピアノ、機械音の融合。interlopeは(不法な)侵入という意味を指す単語だが、この上なく気持ちの良い侵入だ。(一瞬RadioheadのOK Computerを聴いているような錯覚に襲われた。)

 

表題曲「午後の反射光」はどこか日本的かつ情緒的なイントロから始まる。綺麗なメロディーと愛らしい歌詞が心を掴んで離さない。午後の遊園地、溢れる日差しのイメージやスパンコールのようなキラキラした眩い光が散らばるイメージ、様々な情景がコラージュされたかのような楽曲だ。

キリンジのエイリアンズを想起させるようなAメロは既に名曲を暗示させるかのよう。

 

「遠視のコントラスト」はノイジーなギターが印象的なメロウでサイケデリックなチューン。格好良い。「午後の反射光」よりもより一層明確な反射した光のイメージを想像してしまう。

焼きつくだけじゃ 
触れさせて
もう一度 さあ
まだ見えない? 僕の所為で笑ってよ!
乱射した言葉は虚空を舞う
 
誰の所為にしたい?

少し歌詞が捻くれているのもまた良いと感じるのは私だけかな。

 

爽やかで優しい雰囲気の楽曲「瓶底の夏」は晴れた夏の日に縁側でサイダー飲みながら聴きたい。宇宙的なサウンドとピアノの調和も印象的で中毒性がある。

 

最後の曲 「夜を抜けて」は暖かい気持ちになるスローなバラード。ギターのアルペジオがただ美しい。静かで霞みがかったイメージがこのアルバムの最後にとてもよく合っていると思う。歌詞も詩的で儚げで綺麗だ。

 

 

興味を持ってインタビューを読んでみる。

 

例によって、先述のシュルレアリスムに影響を受けているとのこと。アンドレ・ブルトンの名前が出てきていて驚いた。ツイッターのプロフィール欄にも通底器(ブルトンの著書)と記載がある。

 

私は、実に、歴史的な事象から影響を受けている人に弱い。

 

知らない人のために少しだけ解説を。

アンドレ・ブルトンはフランスの詩人でシュルレアリスムの提唱者。1924年シュルレアリスム宣言」を発表した。

 

ブルトンによれば、シュルレアリスム(超現実主義)とは精神の自由や生きることの自由を目指すために、夢、驚異、想像、無意識、狂気、偶然、に注目する。

その方法は、直接浮かんだ言葉やイメージを、何ら修正せずに書き取ること、それこそが純粋なオートマティスム(自動記述)であって、思考の実際の動きを表現する。

末永照和監修『カラー版 20世紀の美術』美術出版社,2000年,p.63より

 

先程のインタビューでは、君島大空が、自動記述的に歌詞を書いている、とさりげなく語っているのだが、自動記述はシュルレアリスムの基礎なので、君島大空は正真正銘のシュルレアリストだ。(大決定!)

 

シュルレアリスムの思想の下で無意識幻想を可視化した作品が数々生まれたように、

夢の中にいるような感覚を与える『午後の反射光』もまた、シュルレアリスムのそれらの作品と相違ないのかもしれない。

 

 

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ところで、実はシュルレアリスムに影響を受けた日本のミュージシャンは多い。

代表的なところだとBUCK-TICKが挙げられる。その他PELICAN FANCLUBや‪THE NOVEMBERS‬(正確にいえばこちらはダダイズムかな)など。

20世紀の芸術運動に関心を持っているミュージシャンは意外にいるわけだが、作品を作る上でその理論を反映させているミュージシャンは数少ないので君島大空は貴重な存在だ。(君島大空の場合は偶然なのか必然なのか私には分からないけれども。)

 

なんだか、私はすっかり君島大空を好きになってしまったみたいだ。

 

CINRAのインタビューではヤン・シュヴァンクマイエルチェコの映像作家)や岡上淑子(日本のコラージュ作家)について言及しているのも興味深い。

 

現代に生まれたシュルレアリスト、君島大空。私の愛してやまないアイドルsora tob sakanaの新譜にも参加しているとのことでそちらも要チェック。今後の活躍に胸を膨らませるばかりだ。

(miku)