ムジーク

勝手気ままに綴る音楽ブログ

追憶のゼロ年代10選

 

どうやら平成が終わってしまうらしい。どこを見渡しても「平成最後」というフレーズが跋扈しており、次は「令和最初」かと思うと、ああもうたくさんだと思わなくもない。が、今回はあえてそれにあやかってみよう。

 

筆者は平成4年生まれであり、ゼロ年代こそが多感な思春期それ自体だと言ってもいい。そんな自分にとって親しみのある「平成」という元号が終わるのは、新しい気持ちになる一方で、やはりどこか寂しさも覚える。

そこで、いよいよ平成も終わるというこのタイミングで、ゼロ年代にリリースされたアルバムを親しみのある邦楽に絞って勝手に振り返りたい。どれもこれも、ドス黒い青春時代を彩ってくれた作品たちだ。完全に個人的な好みで選んだが、特に同年代の読者に何か響くものがあれば幸いである。

 

※なお、作品の中にはテン年代に入ってから聴いたものも含まれるが、今回はあくまでリリース年に準拠するものとする。

 

 

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1. YUI『I LOVED YESTERDAY』(2008)

 

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ゼロ年代YUIで1枚選ぶなら、やはり3rdアルバム『I LOVED YESTERDAY』だろうか。オルタナティヴなロックチューンからストリングスを導入したバラードまで、どの曲も彼女の等身大の言葉で綴られている楽曲たちが並ぶのはデビュー以降の地続きにある。

しかし、" Love is all " では音楽評論家たちへの強い不信感が歌われるなど、今まで以上に彼女自身の苦悩のようなものが見てとれるアルバムでもあった。

手紙は読むより  書く方が

時間がかかること  思い出してみてよ(" Love is all ")

 

こうして本作で覗かせた業界への疑念はやがて活動休止へと繋がり、最終的に彼女は「YUI」としての活動を終了させ、新たにFLOWER FLOWERを始動させることになるのだった。

いずれにせよ、本作がゼロ年代を代表する珠玉のポップアルバムの一つであることは間違いないだろう。

 

そんな彼女も、今や結婚と離婚、そして再婚を経て、子供が4人もいる母親である。時の流れとやらにため息が出てしまう。

 

 

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2. Base Ball Bear『(WHAT IS THE) LOVE & POP?』(2009)

 

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アルバムタイトルは見ての通り、Oasis『(What's The Story) Morning Glory?』をもじったもの。実際、アルバムの途中でインターリュードが2度入り、構成も本家のオマージュとなっている。

 

シングル曲はどれもタイアップがつくなど話題性があり、" changes " でミュージック・ステーションに初出演を果たすなど、当時の彼らの活動はかなり表立っていたように思えたが、当時様々な理由でアルバムの制作が難航したこともあり、小出氏の心境はお茶の間とは逆行していた。結果、明るくてポップなシングル曲を暗いアルバム曲で殺すような、深い孤独感が通底する作品として完成した。(とは言いつつ、銀魂の主題歌となったシングル " Stairway Generation " はアニメの曲とは思えないくらい鬱屈としている。)

孤独という名の風邪 19で終わりじゃないのかい?

高い場所登ったら 寂しさは吹き飛ぶのかい?

積み上げた心の壁が 高すぎてよくわかんない

おいくらか払うから 認めてはくれないか(" Stairway Generation ")

 

ちなみに、収録曲 " 神々LOOKS YOU " は『鴨川ホルモー』(万城目学原作の実写映画)の主題歌として書き下ろされた楽曲ということもあり、ベボベの中でもかなりポップである。歌詞も青春時代特有の心の機微を映画に寄せつつ綴られており、さすがは小出師匠といった具合だが、ライブではあまり披露されていない印象。なお、カップリングに関しても、特徴的なギターのフレーズが冴え渡る " image club " や、岡村靖幸を彷彿とさせる " BOYS MAY CRY " など、細部まで聴き逃せない名シングルとなっている。

  

 

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3. チャットモンチー『告白』(2009)

 

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ゼロ年代において、所謂「ガールズバンド」という枠組みを推し進めた存在として、やはりチャットモンチーは外せないだろう。わざわざガールズバンドというカテゴライズで音楽やバンドを語るのはあまりクレバーではないが、今日に至るまで彼女たちが切り開いた道を辿るバンドは数多く存在するし、その功績は素直に評価すべきだと感じている。

 

チャットモンチーは3人の時代と、ドラムの高橋久美子脱退以降の2人の時代に大きく分けることができるが、3rdアルバムである今作は3人時代の中でも特に突出しているように思える。

プロデューサーは過去作に続きいしわたり淳治が務め、加えて亀田誠治も参加。さらに彼女ら自身もプロデュースを行うなど、ある意味でターニングポイントになったアルバムとも言える。ジャケットの色も1st『耳鳴り』(赤)と2nd『生命力』(青)の2色が使われ、これまでの作品を踏まえて深化させたものだと印象づけている。

 

" 染まるよ "" Last Love Letter " といった名シングルの出来はさることながら、アルバム曲もバラエティに富んだ意欲作。特に「究極のわがままソング」とでも言えるようなラストナンバー " やさしさ " は圧巻。

明日ダメでも

明後日ダメダメでも

私を許して

それがやさしさでしょう?(" やさしさ ")

恋する乙女のラブソングである " 8cmのピンヒール " から幕を開けたアルバムが、 言いたい放題の自意識をあたりかまわず撒き散らして終わることで、本作ならではの清々しい読後感ならぬ「聴後感」をもたらす。なんとも凄まじい。

 

 

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4. ASIAN KUNG-FU GENERATION『ファンクラブ』(2006)

 

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" リライト " がスマッシュ・ヒットし、2ndアルバム『ソルファ』オリコン初登場1位を獲得するなど、一躍人気バンドの地位を得た彼らだったが、3rdアルバムである本作は世間の目を避けながら自意識の迷路に潜っていくような印象を受ける。

特に " ワールドアパート " ではニューヨークの同時多発テロがモチーフとして使われ、世界から分断される自らの心の悲痛な叫びが歌われる。力の限りを尽くすかのようなエモーショナルな歌声が胸を締め付ける。

遠く向こうで

ビルに虚しさが刺さって

六畳のアパートの現実は麻痺した(" ワールドアパート ")

 

歌詞も暗いものが多く、ジャケットに表れているような鬱屈とした雰囲気がアルバム全体を包んでいる。

内にある闇が僕を呼ぶよ

色のない部屋に戻すように(" 桜草 ")

 

また、プログレ的な曲展開を見せる " センスレス " や、冒頭でドビュッシーの「月の光」を引用したその名も " 月光 " など、ギターロックの範疇で様々な趣向を凝らすような実験精神が垣間見えるのも面白い。

 

そして、今作の「世界 vs. 自分」とでも言える構図は4thアルバムワールド ワールド ワールドにも引き継がれ(ジャケットには例の貿易センタービルが登場し、構図も踏襲されている)、後の政治的志向の強い作品が生み出される流れへと繋がっていく。

 

 

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5. フジファブリック『TEENAGER』(2008)

 

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" 桜の季節 " でメジャーデビューして以降、日本的な叙情性を帯びたひねくれギターロックバンドとしてリリースを続けたフジファブリック。3rdアルバムである今作はその路線に「若さ」や「時間の経過」といったテーマが合わさって、独自のポップセンスがより花開いた会心作となっている。

 

フジファブリックと言えば本作にも収録された " 若者のすべて " が代表曲だろう。もちろん多くの人々に愛される名曲であることは自明だが、それ以外にも " Strawberry Shortcakes " などをはじめとした、志村正彦にしか描けないであろう変態曲の数々も相変わらず炸裂している。

ヒッピーになって荒野を裸で歩きたくなる

なんてイカレたことを言う(" Chocolate Panic ")

上目使いでこちら見たら

まつげのカールが綺麗ね

もひとつ僕のイチゴ食べてよ(" Strawberry Shortcakes ")

 

このアルバムで言いたいことは表題曲でもある " TEENAGER " に全て詰まっていると言ってもいいだろう。10代特有のワクワク感と満たされない思いがリスナーを包んだところで、本作は締めくくられる。

夜には希望がいっぱい こっそり家から抜け出そう

おなかはコーラでいっぱい 朝まで聴くんだAC/DC

それでもいつも物足りない

とにかく君に触れられない(" TEENAGER ")

 

なお、志村正彦は2009年12月24日に自宅で亡くなっており(当時29歳)、2019年はちょうど没後10年にあたる。彼が素晴らしいミュージシャンだったことは、これからの世代にも伝わってほしいと願うばかりだ。

 

 

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6. サカナクション『NIGHT FISHING』(2008)

 

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サカナクションの楽曲は「夜」をテーマにしたものが多いが、本作はタイトルも示しているように、アルバム全体を通して「夜」が貫かれている。

他のアルバムと比べるとエレクトロニックなサウンドはやや影を潜めており、孤独な夜にそっと寄り添うような雰囲気が全体を包んでいる。2ndアルバムながら、叙情的な歌詞世界はこの頃から既に完成されていた。

間空いた君の仕草に

夕暮れで見えるその欠片

君と僕とは流れる雲

月を見つけて一人で遊ぶ(" うねり ")

だけどまた振り返って 何かを確かめて

苦しむふりをして 誰かに背を向けて

読み飽きた本を読んで また言葉に埋もれ

旅に出たくなって 君を思い出して(" ティーンエイジ ")

 

極めつけは " ナイトフィッシングイズグッド " だろうか。中盤ではQueen" Bohemian Rhapsody " のような曲展開から意外なリスペクトも垣間見える。

去年と同じ服を着ていたら

去年と同じ僕がいた

後ろめたい嘘や悲しみで

汚れたシミもまだそのまま(" ナイトフィッシングイズグッド ")

 

本作は上京前の北海道を拠点として制作された最後のアルバム。広大な北国特有の空気感と雄弁さとフォーキーな要素が絶妙に絡み合う様はさすがの一言だ。

 

 

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7. スピッツ『三日月ロック』(2002)

 

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90年代、ゼロ年代、そしてテン年代と着実にキャリアを積み続け、国民的バンドとしての地位を揺るぎないものにしているスピッツ。しかし、様々な解釈ができる歌詞や、ライブバンドとしての鉄壁のパフォーマンスなど、J-POP的に捉えている一般的なリスナーからすると意外と知られていない面も多いのが事実。本作も、そんな「意外な一面」に溢れたアルバムの一つと言えるだろう。

 

サビと思われる部分では「ラララ」とだけ歌われる " 水色の街 " 、架空のバンド「ミカンズ」を設定して作られたという " ミカンズのテーマ " 、打ち込みを導入した " ババロア " 、ドラマ主題歌となった " 遥か " など、シリアスなものから少しふざけたものまで、バランス良くバラエティに富んでいる印象。

ゆとりの無いスケジュールを もう少しつめてディストーション

青いボトルの泡盛を 濃いめに割って乾杯しよう(" ミカンズのテーマ ") 

すぐに飛べそうな気がした背中

夢から醒めない翼(" 遥か ")

 

そして『三日月ロック』というタイトルも相まって、全体的に夜に聴きたくなるような雰囲気がある。三日月のように欠けてしまった心を埋めてくれるような、そんな不思議な力をも持っているアルバム。

 

 

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8. ナンバーガール『SAPPUKEI』(2000)

 

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言わずと知れたジャパニーズオルタナティヴの重鎮・ナンバーガール。後続のバンドに与えた影響は計り知れず、「彼らに影響を受けない方が難しい」と言ってしまえるほどではないだろうか。

 

メジャー2枚目となる本作は、持ち味とも言える焦燥感に満ちた作風がこの時点で最高潮に達しており、ヒリヒリとした感情がリスナーに容赦なく襲いかかる。雑居ビルが立ち並ぶ路地裏での殺人のような、あるいは枯れきった団地でひっそりと息を引き取るような、そんな情景が目に浮かんでくる。圧倒的殺伐。

しかしそんな鬱々とした雰囲気も " TRAMPOLINE GIRL " でフワっとかき消されていく。ここでは誰もが「完全勝利」できるのだ。

翔んでるガール ど真ん中 翔んでるガール

戦いは翔んでるガールの完全勝利

真夜中に狂い翔ぶ あの娘の勝利(" TRAMPOLINE GIRL ")

 

ちなみに、故・吉村秀樹bloodthirsty butchers)が歌詞に登場するなど、しっかりと遊び心も忘れていないのも憎いところ。

禅問答 YOSHIMURA HIDEKI

禅問答 答えはいらん(" ABSTRACT TRUTH ")

 

デカダンスと疾走感が同居するダークな仕上がりに取り憑かれてしまう、そんな暗い魅力に満ちたアルバム。

 

 

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9. スーパーカーFuturama』(2000)

 

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2nd『Jump Up』エレクトロニカに接近し、4th『HIGHVISION』では大胆に打ち込みを導入したスーパーカー。本作はそのちょうど中間に位置するアルバムであり、ロックとエレクトロニカ黄金比率で溶け合うサウンドメイキングには目を見張るものがある。 

 

歌詞に関しては、メッセージ性がある曲と、よく分からない言葉の羅列のような曲と、両極端を行き来している。にも関わらず、一つのアルバムとして統一感を出し、全体の流れも違和感なく聴かせてしまう彼らの手段には脱帽せざるを得ない。

やさしさにいい加減でいて

むなしさにいい加減でいて

俺はこう言い続けるんだ

「何をどうも出来なくたって胸に愛とあつい想いを」

君にそう言い続けるんだ

俺はそう、いい加減なんだ(" Karma ")

灰色クライムフルニューウェーヴ MEEeEEEE.(" Blue Subrhyme ")

 

ちなみに、アルバムタイトルは「future(未来)」と「panorama(全景)」を合わせた造語。まるでパノラマ写真のように全方位に広がる未来に希望を抱いたり失望したり、その両者が限りなくプラマイゼロでも、それでもなんとかプラスにほんの少し針が傾いているような、そんな危うさの中で生きている自分たちを精一杯肯定してくれる。本作はそんな不思議なあたたかさに満ちている。

 

 

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10. Syrup16g『HELL-SEE』(2003)

 

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ゼロ年代の日本のロックシーンの中でも、Syrup16gはとりわけカルト的な人気が根強い印象。そして数あるディスコグラフィーの中でも、やはり本作をベストに挙げる人は多いだろう。

 

胸を掻きむしるようなギターのイントロから幕を開ける " イエロウ "(家籠=引きこもり / yellow=臆病者 のダブルミーニング?)、そして " 不眠症 " 、果てには " 末期症状 " と、冒頭から内省的かつ鬱屈とした雰囲気がアルバムを包んでいく。その様は引きこもりがいたずらに症状を悪化させていくようで圧倒的に不健康であり、まるで救いようがない。

こんな気持ちはもういいよ

くるったままの遠近法

夜になるたびwaiting for

のたうち回って不眠症(" 不眠症 ")

しかしシロップの魅力と言えば、その救いようのなさにこそある。これ以上陥りようのないほど堕ちた様を突きつけることで、結果リスナーに寄り添うことに成功しているのだ。本作は特にそれが顕著と言えるのではないだろうか。

 

五十嵐隆という男はつくづく不器用だ。しかし僕らはそれを愛さずにはいられないらしい。

 

 

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長々と書いてきた訳だが、やはり自分にとってゼロ年代の音楽が特別であることを改めて実感した。どんなにどん底にいた時でも、自分には音楽があった。

そして、今回挙げた作品はどれもサブスクリプションサービスが登場する前に出会ったものであるため、より思い入れが強いのも事実だ。知らない音楽にそう簡単には辿り着けなかった時代に聴いたものだからこそ、特別な存在として今日に到るまで心の中で在り続けている。

 

しかし時代は変わった。新しい出会い方で、新しい音楽に出会っていく。それを受け入れて、楽しんでいきたいところだ。

 

最後に、人生で初めて自分で買って観に行ったライブのチケットの写真を載せて締めくくる。10年前と比べたら、随分と遠くへきたものだ。

 

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(taku / おすしたべいこ)