ムジーク

勝手気ままに綴る音楽ブログ

Base Ball Bear・日比谷ノンフィクションⅧと記憶の旅

 

話は10年前まで遡る。

 

僕がBase Ball Bearのライブを初めて観たのは2009年9月12日。ラジオ番組『SCHOOL OF LOCK!!』主催のライブイベント「YOUNG FLAG 09」の札幌公演に、ベボベは出演していた。

 

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同じ年の春頃に"神々LOOKS YOU"を聴いてすっかりベボベにお熱だった僕は、そのイベントの抽選にダメ元で応募してみたところ、あっさり当選。なんと無料でライブを観られることになった。当時の僕は高校2年生、ベボベを観るのが初めてであるのと同時に、そもそもライブを観に行くこと自体が人生で初めての体験だった。

 

正直、ライブの内容はほとんど覚えていない。対バンしていたサカナクションの"ライトダンス"だけはやたら鮮明に記憶に残っているが、肝心なベボベの記憶は長い年月を経てすっかり消し飛んでしまった。しかし、よっぽど良かったのだろう、家に帰りイベントでもらったフライヤーを眺めていると、ベボベが札幌でワンマンライブを行うことを知り、僕は迷わず応募、無事にチケットを獲得したのだった。

 

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2009年10月31日、Base Ball Bear「Zeppyramid tour」札幌公演(Zepp Sapporo)。ライブは最高だった。いや、正確に言えばライブの内容はまたしても覚えていないが、大好きなバンドの大好きな楽曲たちが目の前で演奏されていることにとてつもなく感動したことだけは覚えている。この時、僕はBase Ball Bearというバンドをずっと信じていこうと、そう思った。

 

それから、いつの間にか10年が経っていた。金銭的な理由やタイミングの問題などでそれほど多くベボベのライブに行けないまま、湯浅将平が脱退してしまった。彼の華麗なギタープレイをもっと目に焼き付けておけば良かったという後悔だけはどうしても拭いきれない。かつてサポートメンバーを迎え4人体制で行われたライブを一度だけ観に行ったことがあるが、僕はどうしてもそこにいるはずの湯浅将平の影を追いかけてしまい、やり場のないモヤモヤだけが残っていた。

 

 

* * *

 

 

2019年9月15日。僕は日比谷公園の長蛇の列に並んでいた。Base Ball Bear「Guitar! Drum! Bass! Tour 日比谷ノンフィクションVIII」、念願の初・日比谷ノンフィクションだった。思えばこのシリーズライブはちょうど10年前から始まっており、つまり10年越しの願いが叶ったことになった。

 

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日比谷野外大音楽堂自体は、2016年のきのこ帝国のライブ以来、僕にとって実に3年ぶり2回目に足を踏み入れる場所。物販を求める長蛇の列は約3時間も続いたが、その間会場からはリハーサルの音がこれでもかというくらい漏れ出しており、否応なくテンションが上がった。

 

テンションが上がった、というのはつまり、かつて抱いたモヤモヤが払拭されていることに他ならなかった。聴こえてくる音すべてがかっこいい。かっこいいというシンプルな感想が僕を支配した。そこに「ひとり足りない」というような雑念は一切なかった。このライブは間違いなく過去最高だろうという確信が、この時点で既にあった。

 

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* * *

 

 

僕はどうしようもなくBase Ball Bearが好きだと思った。

 

最新EP『ポラリス』『Grape』の2枚から全曲と、これまで発表したアルバムからほぼ1曲ずつ披露するセットリストは、僕を否応なしに青春時代に引き戻した。この感覚だ、僕が10年前に札幌で感じていた高揚感は、これだった。

 

ステージを観る。サポートメンバーもゲストもいない、完全に三人のステージ。下手側にはギターをかき鳴らし歌い上げる小出祐介、上手側にはベースを弾き倒す関根史織、そして後方中央にはどっしりと構えて安定感のあるドラムで魅せる堀之内大介。その3人を結んで出来上がる三角形は、他のどの三角形よりも美しい。

 

湯浅将平はもういない。しかし、その危機を乗り越えた強さが、確かに音に宿っていた。そして、4人時代の楽曲を3人用にリアレンジし、何の違和感もなく飄々と披露していた。「Guitar! Drum! Bass! Tour」というタイトルにもスリーピースバンドとしての矜持が如実に現れているように、まさに今のベボベの最高到達点を可視化するライブ。かっこいい。思わず目頭が熱くなる瞬間が何度もあった。笑いを誘うMCも相変わらずだ。

 

中盤、ステージ後方の垂れ幕が落ち、電飾が施されたふたつの電波塔が現れる場面があった。ひとつは通常の電波塔、そしてもうひとつは『Grape』のジャケットにも見られる逆転した電波塔だった。この演出は、本当に憎い。

 

あの夜、僕はティーンエイジャーだった。いや、正確に言うなら、Base Ball Bearに対して抱いてきた全ての喜怒哀楽が全身を駆け巡り、僕は10年前の自分と対話していた。 そして、僕は16歳の自分と共にBase Ball Bearを観ていた。「ロックはティーンエイジャーのものである」という、ある種のイデオロギーが、そうさせていた。

 

Base Ball Bearにはロックバンドのすべてが詰まっている、ということを実感した。かっこよさ、シリアスさ、メッセージ性、批判精神、美学、爆発力、そして楽しさ。そのすべてが、たまらなく愛おしい。10年前と比べるとバンドを取り巻く環境も自分の置かれた状況も全く違うけれど、今までベボベを信じ続けてきたことは間違いではなかった。心からそう思えたことが、とても嬉しかった。僕の中のモヤモヤは完全に消え失せた。

 

アンコールでは「リリース情報」と題して、堀之内大介の結婚と出産(「息子をリリースしました!」と宣言していた)をサプライズ発表。あの多幸感は一生忘れない。そして去り際、小出祐介が「ロックバンドって、本当にいいものですね」と半ば冗談のような口ぶりで言っていたが、そのシンプルな一言こそが、あの夜のすべてのような気がする。

 

ステージ後方でキラキラと光るふたつの電波塔。あれは、僕にとっての大きな道標となるだろう。これからもBase Ball Bearを信じていこうと思う。

 

 

(taku / おすしたべいこ)

 

 

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Base Ball Bear「Guitar! Drum! Bass! Tour 日比谷ノンフィクションVIII」@日比谷野外大音楽堂 2019/09/15

1. 試される
2. Stairway Generation
3. いまは僕の目を見て
4. 彼氏彼女の関係
5.「それって、for 誰?」part.1
6. ポラリス
7. Flame
8. Summer Melt
9. ダビングデイズ
10. PARK
11. changes
12. 十字架You and I
13. Grape Juice
14. LOVE MATHEMATICS
15. CRAZY FOR YOUの季節
16. セプテンバー・ステップス

En
17.  The End
18. ドラマチック

 

 

△『Grape』のレビュー記事もよろしければどうぞ。