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乱暴なリハビリの先に - Syrup16g「SCAM:SPAM」

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2019/10/04 SCAM <詐欺>

 

初めて恵比寿駅で下車した。金曜日の夜の人波に抗いながらエスカレーターを登り、空中回廊をひたすら進んでいく。やがて、これから観ることになるバンドとは真逆の雰囲気を醸し出す広々とした庭園のような場所に、僕は辿り着いていた。

 

会場の入り口に近づいていくと、黒い人たちがゴチャゴチャと入場を開始していた。これを正常な光景だと思うならば、おそらく感覚が麻痺しているだろう。中へ入り奥へ進んでいくと、天井の高い体育館のような空間に出た。黒い人たちがステージに置かれたギター、ベース、ドラムを見つめながら立っている。最前列では「撮影禁止」の旨が書かれた看板が病気のように何度も往復し、スピーカーからはひたすらJoy Divisionの名曲たちが流れ続けていた。手に変な汗をかく。

 

開演時間から5分ほど押して、照明が暗転した。黒い人たちがステージに向かってどっと押し寄せる。"virgin suicide"が流れ出す。下手から、中畑大樹キタダマキ、そして五十嵐隆が登場した。紛れもない、Syrup16gだ。

 

約1年半ぶりの「復活」となったこの日に披露されたのは、2008年の解散以前の楽曲だった。五十嵐は1曲目の"天才"のイントロからギターを間違えたり、中畑に「そもそも人前に出るのが(久しぶり)…」と揶揄されたり、もうベテランなのにMCで「緊張する! あー!」と叫んだり散々な様子だが、僕には全てが許せた。いや、許すとかそういうことではなく、こんな大事な夜に「詐欺」なんてタイトルをつけてしまうことも含めて、愛おしいと思った。

 

"神のカルマ"のイントロのドラムが響き渡りそこにベースの単音が加わり最後にギターが鳴らされるあの瞬間に僕の視界は涙でぼやけ、しばらくは目の前で繰り広げられている光景に自分の感情が全く追いつかなかった。"回送"、"ex. 人間"、"イマジン"、"テイレベル"…まさに「あれもこれも」状態で、とても正気ではいられなかった。

 

あっという間だった。本編最後の"scene through"で僕はようやく自分を取り戻していた。解散前のラストアルバムに収録されたこの曲を最後に披露することは、とても意義のあることだ。

 

途中、MCで五十嵐が「(このギター)ヤフオクで15,000円で買ったんですよ」と衝撃の告白をし、会場をどよめかせる場面があった。にわかには信じ難い事実だった。安いギターが必ずしも駄目だということはないし、そのギターはどうやらしっかりと手入れされたものらしいが、やはりインパクトは絶大だった。そしてこのことは、どんなギターでも五十嵐が弾けばたちまち「シロップの音」になるということの証明でもあったのだ。

 

熱気に満ちた会場の大きな拍手に応えるように、アンコールは2回行われた。最後の最後に披露された"根ぐされ"で、どれほどのシロップファンが救われただろうか。音楽を安易に「救い」だと表現することは、もしかしたら危険なのかもしれないが、シロップの音楽は確実にその作用が強いのは紛れもない事実だろう。

 

五十嵐隆という、いつまでも「不安定」で「絶対的」な男を鉄壁のリズム隊が支えることで、「Syrup16g」というバンドは成り立っている。基本的に無骨な表情だが時折笑顔を見せながら五十嵐を見守るようにテクニカルなベースを弾き倒すキタダマキ、百戦錬磨を思わせる爆発力と安定感で強靭なビートを作り出す中畑大樹、そして首を筋張らせながら絞り出すように歌い、歯を食いしばりながらギターをかき鳴らす五十嵐隆。この夜、シロップはその求心力(あるいは救心力か)をさらに強めた、と言っていいだろう。僕はその目撃者となれたことを、誇りに思う。

 

 

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2019/10/05 SPAM <迷惑>

 

昨夜に続いて「迷惑」と銘打たれたこの日は、再結成後の楽曲が披露された。おそらく、大方のファンが解散前の楽曲をライブで観たいと思っていると予想した上でのこのタイトルだろう。しかしこれが、迷惑であるはずがない。

 

五十嵐自身も昨夜よりは調子を取り戻しているように見えた。"生きているよりマシさ"、"赤いカラス"、"冷たい掌"、"Murder You Know"(五十嵐曰く「めっちゃ好き! 地味!」)、"宇宙遊泳"など、次々と披露される再結成後の楽曲を浴びていくうちに、Syrup16gがしっかりと「現在進行形のバンド」であることを改めて実感した。この特別な夜に披露しているからには、当然五十嵐が特に気に入っている楽曲たちだろう。五十嵐はMCで再結成後の楽曲ばかりのセットリストを謝っていたが、その必要は全くなかった。過去の作品に縛られることなく現在も充実した活動ができているということが、僕にはとても嬉しかったし、同じ気持ちだったファンも少なくないと思う。

 

そして、アンコール(この日も2回あった)。いきなり"イエロウ"から始まり、怒涛の勢いで解散前のキラーチューンたちが披露された。完全にサービスタイムである。「もうちょっとやろう(中畑)」という言葉に歓喜する会場。"生活"、"落堕"、"空をなくす"、"真空"など、この日のために取っておいたと言わんばかりのラインナップだった。

 

Syrup16gが2日間やり切った。両手を合わせながらステージを後にする五十嵐隆の姿が忘れられない。

 

五十嵐隆は1日目のMCで今回のライブを「乱暴なリハビリ」と形容していた。そして、それにファンを付き合わせてしまったことを謝ってもいた。しかし、僕らはそれをある意味望んで観に来ていた。「Syrup16gが存在し、ライブをやってくれる」という事実が、僕らを勇気づけた。リハビリでも何でも来いだ。

 

両日共にソールドアウトとなった今回のライブ。それに伴い、来年の追加公演も決定している。新旧織り交ぜながら、新曲もやるかもしれないとのことだ。次なるリリース情報を楽しみにしつつ、彼らがこの先も充実した音楽活動ができることを、切に願ってやまない。

 

 

(taku / おすしたべいこ)

 

  

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 Syrup16g「SCAM:SPAM」@恵比寿ザ・ガーデンホール 2019/10/04 05

 

<SCAM>

SE:virgin suicide
1. 天才
2. ソドシラソ
3. 神のカルマ
4. Sonic Disorder
5. Heaven
6. Honolulu★Rock
7. 回送
8. ex. 人間
9. イマジン
10. テイレベル
11. ハミングバード
12. scene through

En1
13. (I'm not) by you
14. 変態
15. パープルムカデ
16. リアル

En2
17. 根ぐされ
 

SPAM

SE:virgin suicide
1. 生きているよりマシさ
2. 赤いカラス
3. ゆびきりをしたのは
4. Stop Brain
5. Find the answer
6. Star Slave
7. 冷たい掌
8. Share the light
9. vampire's store
10. Murder You Know
11. 変拍子
12. 宇宙遊泳

En1
13. イエロウ
14. 生活
15. 落堕

En2
16. 翌日
17. coup d'Etat
18. 真空