ナンバーガール・逆噴射バンドと無常の旅
ずっと、彼らは再結成しないと思っていたし、してほしくないとすら思っていた。それがどうだ、17年ぶりに復活すると知った途端、いとも簡単に手のひらを返してしまった。
ナンバーガール。僕の人生に深く刻まれているバンドのひとつだ。
存在を知った頃にはとっくに「過去」のバンドだったが、気づけば僕はその音の虜になっていた。浪人時代、最も再生した曲は"透明少女"と言ってもいい。震災で日本が疲弊していたあの年、僕はイヤホンを両耳にねじ込んで、透明少女の存在を信じながら自転車のペダルをひたすら漕いで予備校に通っていた。
しかし、2019年も終わりに差しかかる頃、僕はナンバーガールのライブを観ていた。そんな日が来るなんて全く予想していなかった。この世は無常である。
COUNTDOWN JAPAN 19/20のステージに、ナンバーガールは立っていた。未だにあの光景を目の当たりにしていたことが信じられない。会場に漂っていた異様な空気が、僕を突き刺したのをよく覚えている。
しかし、ある意味もっと信じられないようなことが起きた。無観客ライブの生配信、である。
* * *
終始、淡々と、ヒリついたライブを遂行する4人がそこに居た。本来であれば超満員だったはずのZEPP TOKYOに、観客の姿はない。その代わり、フロアにはセンタークレーンが置かれ、普段のライブでは撮れないような画角での撮影が可能となり、迫力のある映像が広がっていた。
音響や画質も生配信とは思えないほど素晴らしく、さながらこれまでYouTubeで観てきた過去のライブ映像をアップデートしたかのような感動があった。まさに「6本の狂ったハガネの振動」が令和の世に蘇った瞬間だった。
ライブの演出も、向井秀徳が自ら無観客用に考えたものだったという。突然握られるピストル、謎すぎる独特なMC(「異常空間Z」という新語を生み出すなどしていた)、4本同時の喫煙、そして画面に向かって発砲…と、やりたい放題。向井秀徳を止める者など、もはや誰もいなかった。
しまいには、"OMOIDE IN MY HEAD"で森山未來がサプライズで登場。フロアでめちゃくちゃに暴れ回ったかと思えば、ステージに上がって煙草に火を付けてピースサインする始末。その盛り上がりはTwitterでトレンド入りするほどだった。
代表曲からレアな曲まで、惜しみなく披露した2時間。観客がいない空間はまさに「冷凍都市」もしくは「殺風景」とでも言うべき空気感があって、奇しくも彼らとマッチしていた。
生で観たよりもずっと「ナンバーガールは実在した」ということを、まざまざと見せつけられた。それほどにまで衝撃的な映像だったと思う。
* * *
ただ、配信が終わって数日経って、ようやく思考が冷静になってきた。
無観客ライブというのは、コロナショックによって実現してしまった、言わば「非常事態」だったわけである。向井秀徳が「稼ぎたい」と言って再結成したナンバーガールが、皮肉にも無銭の生配信に踏み切ったのだ。そこには運営側の、そしてバンド側の100%の「善意」がある。そんな状況でも、MCでコロナウイルスに言及することは一切なかった。 いつも通り…いや、いつもより狂気じみたナンバーガールが、ただそこに居たのだ。そして、僕らが求めている「エンターテインメント」が、まさにそこにあったのだ。
あのライブの裏側で、どれほどの損害が出ていたのだろう。そう考えると、無観客でもライブを決行してくれた彼らには、ただただ感謝の意が込み上げてくる。
無常の世には、やはりナンバーガールが必要だ。
散々暴れ回っていたマスク姿の森山未來は、少なくとも今の僕そのものだった。どんな状況であっても、僕は音楽の中で踊っていたい。
(taku / おすしたべいこ)