ムジーク

勝手気ままに綴る音楽ブログ

本当の自分は誰にもあげない - 羊文学『きらめき』レビュー

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7月3日。2019年もB面に差し掛かって程なく、羊文学の新作『きらめき』が届けられた。

 

羊文学は、昨年リリースした1st アルバム『若者たちへ』に代表されるように、若者の心象風景を描き出すことに関しては本当に長けている。絶対的な塩塚モエカ(Vo. G.)というフロントマンが紡ぐ歌詞とメロディは、若さゆえの焦燥感を露わにさせ、僕らの心を掴んで離さない。その繊細な彼女の歌とギターと意志が、ゆりか(Ba.)フクダヒロア(Dr.)の力強いリズム隊と合わさった瞬間、無敵になる。スリーピースバンドのシンプルな良さが、そこには凝縮されている。

 

 

そんな彼女たちの新作『きらめき』は、これまで以上に「女の子らしさ」が表出した作品となった。塩塚がCHARAのライブに行き、「女」を前面に押し出して表現している様を観て、今回そのようなコンセプトに至ったとのこと。アートワークやMVにも女性作家を起用し、こだわりを見せている。

 

△2019年2月23日、下北沢THREEにて行われた企画「WEARING THE INSIDE OUT」の本編終了後、対バンした揺らぎのみらこ(Vo. G.)と塩塚が即興でCHARAの"きえる"をカバーし、会場を沸かせたという一幕も。 

 

さて、そんな『きらめき』により迫るべく、順を追って収録曲を見ていくことにしよう。

 

 

 

* * *

 

 

1. あたらしいわたし

 

軽快なギターから始まる、まさに「女の子を肯定する」ようなナンバー。

 

化粧品CMのコンペに出すための曲ということで、歌詞もそのような方向に寄せられているが、印象深いのが塩塚の歌い方。過去の作品に比べて、より伸びやかで、ビブラートが効いているように聴こえるのは気のせいだろうか(そしてこの変化は今作全体に言うことができるように思う)。

 

そういった歌い方の変化により、終盤の

あなたでいることいいのよ

本当の自分は誰にもあげない

というフレーズも相まって、自分自身を認める揺るぎない強さを感じさせる。もちろん、その強さは弱さを知っているからこそのものだということは、これまでの作品を聴けば自明だ。

 

 

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2. ロマンス

 

"あたらしいわたし"に続いて

女の子はいつだって無敵だよ

とキラーフレーズを放つ、女の子肯定ソング。

 

冒頭の2曲はこれまでの羊文学に比べると溌剌としており、新しい一面を覗かせたという印象が強い。

 

しかし、塩塚自身は「誰かのためというよりは自分がそう思いたくて歌詞を書いている」といった旨の発言をしている。思い返せば、羊文学のこれまでの曲も「自分たちのため」の歌に聴こえてくる。そう思えば、この曲も今までの羊文学と地続きにあると言っていい気がするのだ。

 

「ネトストをしておかしくなる女の子が主人公」というかなり危ない裏設定の曲だが、それを全く違和感なくポップに仕上げるのはさすがの一言。かわいさの陰に潜む狂気がそこにはある。そして、この曲に"ロマンス"というタイトルを付けてしまうセンスが、本当に素晴らしい。曲のイメージがスーパーカーというのもまた面白い。

 

△リリースに先駆けて公開された"ロマンス"のMV。プールサイドの奇妙なダンスがクセになる。

 

△過去にはワンマンライブでスーパーカーの"AOHARU YOUTH"をカバーしたこともあった。

 

 

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3. ソーダ

 

冒頭2曲から一転、シリアスなモードに。丁寧に鳴らされるギター、それと優しく絡み合うベースとドラム。ミディアムテンポの曲こそが羊文学の真骨頂だと言わざるを得ない。一切の無駄がなく、圧倒的に美しい。

 

歌詞も秀逸で、

僕らの部屋は井戸の中浮かぶ小舟だ

波を打つきみの息の根は新しい飛行機雲だ

というフレーズには思わず脱帽。どうしたらこんな言葉を選ぶことができるのか…。リスナーの心の深い部分で響き渡る名フレーズだ。

 

パチパチと炭酸がはじけるソーダ水。僕らの日常は時折思わぬ事象に脅かされ、途端にはじけてしまうような儚く脆いものだが、塩塚はそれを誰よりも知っているからこそ、こういう曲が描けるのだと思う。個人的には、今作のベストナンバー。

 

 

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4. ミルク

 

こちらもミディアムなナンバーだが、シリアスさというよりはポップな印象が強い。「覆水盆に返らず」をアメリカでは「こぼれたミルクを嘆いてもしょうがない」と表現することからヒントを得て作られた一曲だとか。

 

シンプルな曲だが、考えるのに時間がかかったというギターのフレーズは、考え抜かれた故の洗練さがある。もはや職人技。

 

過ぎ去ったことをくよくよ考えてしまったとしても

それでいい それでいい それでいいの

と優しく歌う。塩塚自身に向けられた言葉でもあることは、言うまでもない。

 

 

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5. 優しさについて

 

今作の中では最も新しいナンバー。イントロのギターのアルペジオで全て持って行かれてしまう。リズム隊は控えめで、塩塚の存在感をより際立たせている。

 

「優しさ」とは、時に凶器にもなる。

話を聞いて 優しさというならわたしの強さを壊すのやめて

という訴えが、胸を締め付ける。

 

後半の、塩塚の跳ねるようなスキャットが本当に美しい。木漏れ日の中でまどろむような幕引きで、今作は締めくくられる。

 

 

* * *

 

 

今作について、「女の子をテーマにした作品」という紹介のされ方をよく目にする。実際そうではあるのだが、それよりも意味合いとしては「塩塚が女である自分自身を認める作品」であり、つまりそれはアイデンティティの肯定だ。決して女性だけに向けられた作品ではなく、この生きづらさで溢れた日常生活の道しるべになるような力強さが『きらめき』には確かにある。

 

羊文学は一貫して「自分(たち)のために」歌っているのかもしれないが、それが多くのリスナーに支持されているということは、塩塚モエカが表現者たる所以であり、羊文学の音楽の意義でもあるのだ。

 

「本当の自分は誰にもあげない」-そんな変わらぬ強さを持ちながら新たな扉を開き続ける羊文学のこれからが、もっともっと楽しみで仕方がない。

 

(taku / おすしたべいこ)

 

 

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参考記事:

 

好きなMV監督のはなし - 小嶋貴之監督をご存じですか?

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時は令和、次の記事は何を書こうか悩んでおりましたら、いつの間にかTシャツを着る季節になってしまいました。(!)

さて、本日は好きなMV監督のお話をしようと思います。 ※MV=ミュージックビデオの略、PVとも。 

わたくし映像技術に関しては全くの素人になりますのでそれを大前提で読んでいただけますと幸いです。

 

皆さんは小嶋貴之さんという方をご存じでしょうか?

知らないよ、という人もこの監督の作品を知らぬ間に観ているかもしれません。

 

主な担当アーティストは、KEYTALKACIDMANストレイテナーPlastic Treethe telephonesなどが挙げられます。

上記はロックバンドに絞りましたが、他にもアイドルやヴィジュアル系、声優、ボーカロイドなどジャンルを問わず幅広いシーンで活躍されている映像作家さんです。

(私はこの監督の作品が好きなあまり、クレジットを見ずとも、おっ、これは小嶋作品だな!と分かるようになってきました。)

 

数ある作品の中でも今日は特に小嶋監督らしさが垣間見える作品群をご紹介します。 

 

小嶋さんの作品にはどんな特徴があるのでしょうか?

今回は自分なりに4つのセクションに分けてみましたので、MVと一緒にみていくことにしましょう。

 

①ファンタジー性の高いモチーフ

ファンタジア/ACIDMAN

第一の特徴は、映像に神話あるいは童話的なモチーフが頻出する、というところです。

このACIDMANのMVは、まさに曲題の"ファンタジア"の通りファンタジックな要素が詰まった映像となっています。

比較的多く出てくるモチーフには時計や歯車、額縁、鳥、蝶、ウサギ、鹿、花、草、木が挙げられます。

いずれも小さい頃に絵本で見たかのような描写で観る者に懐かしさを感じさせます。

【他の作品】

℃-ute『夢幻クライマックス』(℃-ute[Dreamlike Climax])(Promotion Edit) - YouTube

downy - 「時雨前」「黒」 - YouTube

 

②コラージュ的なクラフト感のあるアニメーション

甘美な死骸/9GOATS BLACK OUT

小嶋監督は、コラージュもしくはアッサンブラージュの手法を用いたようなアニメーションも作品に取り入れています。

これらのアニメーションには、ジョセフ・コーネル(アメリカの芸術家)やヤン・シュヴァンクマイエル(チェコの映像作家)を彷彿とさせるような、どこかシュルレアリスム的表現を感じます。

CGで人物を切り抜き、アーティストをアニメーションの世界の中に紛れ込ませてしまっているのもとても面白いですね。まさにアート作品のようなMVと言えます。

【他の作品】

Moran 「春の夜の、ひと雫」Full version - YouTube

ダイナソー / Czecho No Republic - YouTube

 

③幻想的な光の表現

 ピアノブラック/Plastic Tree

前掲した2つの動画を見た方はそろそろ共通する特徴にお気づきではないでしょうか?

最も小嶋作品によく現れているのは"光"の効果的な表現です。

このMVでは後半、ボーカル有村竜太朗の顔が見えない程、光が前面に出ています。

他のMVでも光が全面的に押し出されているものが非常に多いです。

一般的に光というと、白もしくは黄色の単色のみで表現することが多いですが、時折小嶋監督の用いる淡い虹色のような柔らかい光は鑑賞者を幻想的なイメージへと誘います。

【他の作品】

 【MVフル】MAN WITH A MISSION「FLY AGAIN」 - YouTube

KEYTALK "sympathy" 【PV】 - YouTube

 

④浮遊している空間

 フリージア/ムック

最後に、小嶋監督の作品には人物・物体が空中に浮かんでいるようなMVがいくつかあること記しておきます。

このMVは今まで述べてきた①〜③の特徴が顕著にあらわれている作品です。

サビ前までアニメーションやボーカル逹瑯と耽美な部屋が映し出されていますが、サビになると一気に開放的になり、人物と部屋?が完全に空中浮遊状態です。

このような浮遊感のある空間表現も時折見られる小嶋監督のひとつの特徴ですね。

しかし、CGの技術って本当に凄いです。(語彙力の欠如!)

【他の作品】

LITE / Ghost Dance - YouTube

ギルガメッシュ(girugamesh)「Drain」MV (Full Ver.) - YouTube

 

ここまでMVの例をあげて作品を観てきましたが、皆さんいかがでしたでしょうか?

小嶋作品に興味をお持ちいただけましたでしょうか?

本日紹介したものはほんの一部です。

他にもどんな作品があるのか知りたいよ、という方は下記ブログをオススメします。

 

また、ご本人の貴重なインタビューもありますので興味のある方は是非読んでいただければと思います。

 

先述したような特徴はあるにしてもどの作品もそのアーティストらしさを失わず、毎回観るたびに新鮮さを与えてくれる小嶋監督の映像。

 

個人的にMVと楽曲のイメージが違いすぎると非常にガッカリしてしまうタイプなのですが、小嶋監督の作品は言うことなしです。いつも素敵な映像をありがとうございます。(深めのお辞儀)

これからの小嶋監督の作品にも期待が膨らむばかりですね。

 

それでは、今夜はここまで。

 

(miku)

 

誰も得をしないドリンクチケットのはなし

突然ですが、みなさんライブハウスでドリンクは飲みますか?

 

今日は誰も得をしないドリンクチケットの話をしようと思います。

 

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私はどちらかというとドリンクを引き換えないことが多いです。理由は様々あります。

・取りに行く時間or飲む時間がない

・混んでいて取りに行くのが面倒くさい

・そもそも喉が渇いていない

※ちゃんと引き換えることも結構ありますのでご安心ください。

そんなこんなで写真のようにドリンクチケットが溜まり続けています。

せっかく溜まったので今日は私のドリンクチケットの保管方法やドリンクチケットの種類について言及したいと思います。(本当に誰も得をしませんね。)

 

まず、保管方法。

みなさんはどんな風に保管していますか?


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私はこんな感じで、お菓子の箱や可愛い缶に収納しています。

たまに開けて、そういえばこんなライブハウスも行ったな〜とか、このドリンクチケット良いデザインだな〜とか色々思います。ライブハウスによって大きさや形式も様々でぐちゃぐちゃになってしまうので個人的には種類別に保管するのがオススメです。(そもそもみんな保管しているんですか…?)

 

ここからはドリンクチケットの種類について記述していこうと思います。

 

〈紙タイプ〉

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ライブハウスの定番、紙タイプ。おそらく一番費用がかかりません。

紙質は様々ですがペラペラが多いですね。私はドリンクチケットは大体お財布の中にしまうのですが、クシャっとなるのが嫌なので厚紙タイプが好きです。TSUTAYA-O系列等日付のスタンプが押してあるものも結構ありますね。

中にはポイントカード制のものもあります。(なお、私は貯めた試しがありません。わざわざ次のライブの時に持っていかないので。)

 

ちなみこのタイプでわたしが一番多く所持していたものは高田馬場CLUB PHASEのものでした。。あのバーみたいな空間、ドリンク混みますよね。

 

ラミネートタイプ〉
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続きまして、紙タイプと同じくらい見る、紙にラミネートタイプ。

ちょっと手間がかかっていますが、こちらもそこまで費用はかかっていなそう。

紙タイプと比べてしっかりするのでお財布の中でクシャっとする心配もなく、安心です。ただ、ちょっと見た目がダサいかも。

 

〈ピックタイプ〉
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続いてピックタイプ。

これは比較的少ないかもしれませんが、実用性がありますね。私は実際に使った試しがないですが。。

持っていてテンションが上がるので好きです。

(渋谷チェルシーホテルのドリンクは、残念ながら換えたことないようで溜まりに溜まってます。)

 

〈缶バッチタイプ〉
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こちらはみんな大好き缶バッチタイプ。

一番私の好きなタイプです。揃いも揃って好きなライブハウスがこのタイプなので結構嬉しいです。

私が特に好きな缶バッチタイプは恵比寿リキッドルームのものです(写真だとLIQUIDROOM、LRと良い感じのロゴで書いてあるもの)。デザインがオシャレで色展開もキャワイイ!トートバッグにつけたい感じです。

ちなみに缶バッチ所持数は新宿LOFTがダントツでした。LOFTは色んなジャンルで行く場所ですね。

 

〈メダルタイプ〉
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お財布に入れておくと小銭と間違えて使いそうになってしまう、メダルタイプ。

メダルタイプは意外と少ない気がします。見た目は可愛くて良いのですが重量があるので個人的にはちょっと苦手です。。

今はなき渋谷AXが懐かしいですね。

 

〈小判タイプ〉
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なんと!こちらは小判タイプ!

新宿SAMURAIのドリンクチケットです。カエルが手を挙げているソーキュートなデザインです。

後ろには「無事帰ル」との文字入り。ちなみにこちら他の柄もあるそうです。かわいやかわいや。

 

最後に。私の一番多く所持しているドリンクチケットを紹介します。

 

 

 

ジャジャーーーーーン

 

 


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池袋手刀(チョップ)!

我らが手刀ドームのドリンクチケットですね。並べると独特さが際立ちますね。タイプは紙にラミネートタイプです。デザインはイラストのものと写真のもの、2種類あります。

個人的にはaieさん作(deadman/the god and death stars/gibkiy gibkiy gibkiy/KEEL他)のゆるゆるイラストver.が好きです。

手刀にゆかりのあるアンダーグラウンドな方々の写真を使用したチケットは持っていて恥ずかしいようななんともいえない気持ちになりますね。(裸体!)

 

さて、長々と読んでいただきありがとうございました。

今まで報われなかったドリンクチケット達も今回紹介されて満足げな表情です。(?)

 

みなさんの好きなドリンクチケットはどれですか?よろしければ今度小声で教えてください。

 

それでは、みなさん、令和も素晴らしいライブハウス生活をお過ごしください。

 

(miku)

 

追憶のゼロ年代10選

 

どうやら平成が終わってしまうらしい。どこを見渡しても「平成最後」というフレーズが跋扈しており、次は「令和最初」かと思うと、ああもうたくさんだと思わなくもない。が、今回はあえてそれにあやかってみよう。

 

筆者は平成4年生まれであり、ゼロ年代こそが多感な思春期それ自体だと言ってもいい。そんな自分にとって親しみのある「平成」という元号が終わるのは、新しい気持ちになる一方で、やはりどこか寂しさも覚える。

そこで、いよいよ平成も終わるというこのタイミングで、ゼロ年代にリリースされたアルバムを親しみのある邦楽に絞って勝手に振り返りたい。どれもこれも、ドス黒い青春時代を彩ってくれた作品たちだ。完全に個人的な好みで選んだが、特に同年代の読者に何か響くものがあれば幸いである。

 

※なお、作品の中にはテン年代に入ってから聴いたものも含まれるが、今回はあくまでリリース年に準拠するものとする。

 

 

* * *

 

 

1. YUI『I LOVED YESTERDAY』(2008)

 

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ゼロ年代YUIで1枚選ぶなら、やはり3rdアルバム『I LOVED YESTERDAY』だろうか。オルタナティヴなロックチューンからストリングスを導入したバラードまで、どの曲も彼女の等身大の言葉で綴られている楽曲たちが並ぶのはデビュー以降の地続きにある。

しかし、" Love is all " では音楽評論家たちへの強い不信感が歌われるなど、今まで以上に彼女自身の苦悩のようなものが見てとれるアルバムでもあった。

手紙は読むより  書く方が

時間がかかること  思い出してみてよ(" Love is all ")

 

こうして本作で覗かせた業界への疑念はやがて活動休止へと繋がり、最終的に彼女は「YUI」としての活動を終了させ、新たにFLOWER FLOWERを始動させることになるのだった。

いずれにせよ、本作がゼロ年代を代表する珠玉のポップアルバムの一つであることは間違いないだろう。

 

そんな彼女も、今や結婚と離婚、そして再婚を経て、子供が4人もいる母親である。時の流れとやらにため息が出てしまう。

 

 

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2. Base Ball Bear『(WHAT IS THE) LOVE & POP?』(2009)

 

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アルバムタイトルは見ての通り、Oasis『(What's The Story) Morning Glory?』をもじったもの。実際、アルバムの途中でインターリュードが2度入り、構成も本家のオマージュとなっている。

 

シングル曲はどれもタイアップがつくなど話題性があり、" changes " でミュージック・ステーションに初出演を果たすなど、当時の彼らの活動はかなり表立っていたように思えたが、当時様々な理由でアルバムの制作が難航したこともあり、小出氏の心境はお茶の間とは逆行していた。結果、明るくてポップなシングル曲を暗いアルバム曲で殺すような、深い孤独感が通底する作品として完成した。(とは言いつつ、銀魂の主題歌となったシングル " Stairway Generation " はアニメの曲とは思えないくらい鬱屈としている。)

孤独という名の風邪 19で終わりじゃないのかい?

高い場所登ったら 寂しさは吹き飛ぶのかい?

積み上げた心の壁が 高すぎてよくわかんない

おいくらか払うから 認めてはくれないか(" Stairway Generation ")

 

ちなみに、収録曲 " 神々LOOKS YOU " は『鴨川ホルモー』(万城目学原作の実写映画)の主題歌として書き下ろされた楽曲ということもあり、ベボベの中でもかなりポップである。歌詞も青春時代特有の心の機微を映画に寄せつつ綴られており、さすがは小出師匠といった具合だが、ライブではあまり披露されていない印象。なお、カップリングに関しても、特徴的なギターのフレーズが冴え渡る " image club " や、岡村靖幸を彷彿とさせる " BOYS MAY CRY " など、細部まで聴き逃せない名シングルとなっている。

  

 

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3. チャットモンチー『告白』(2009)

 

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ゼロ年代において、所謂「ガールズバンド」という枠組みを推し進めた存在として、やはりチャットモンチーは外せないだろう。わざわざガールズバンドというカテゴライズで音楽やバンドを語るのはあまりクレバーではないが、今日に至るまで彼女たちが切り開いた道を辿るバンドは数多く存在するし、その功績は素直に評価すべきだと感じている。

 

チャットモンチーは3人の時代と、ドラムの高橋久美子脱退以降の2人の時代に大きく分けることができるが、3rdアルバムである今作は3人時代の中でも特に突出しているように思える。

プロデューサーは過去作に続きいしわたり淳治が務め、加えて亀田誠治も参加。さらに彼女ら自身もプロデュースを行うなど、ある意味でターニングポイントになったアルバムとも言える。ジャケットの色も1st『耳鳴り』(赤)と2nd『生命力』(青)の2色が使われ、これまでの作品を踏まえて深化させたものだと印象づけている。

 

" 染まるよ "" Last Love Letter " といった名シングルの出来はさることながら、アルバム曲もバラエティに富んだ意欲作。特に「究極のわがままソング」とでも言えるようなラストナンバー " やさしさ " は圧巻。

明日ダメでも

明後日ダメダメでも

私を許して

それがやさしさでしょう?(" やさしさ ")

恋する乙女のラブソングである " 8cmのピンヒール " から幕を開けたアルバムが、 言いたい放題の自意識をあたりかまわず撒き散らして終わることで、本作ならではの清々しい読後感ならぬ「聴後感」をもたらす。なんとも凄まじい。

 

 

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4. ASIAN KUNG-FU GENERATION『ファンクラブ』(2006)

 

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" リライト " がスマッシュ・ヒットし、2ndアルバム『ソルファ』オリコン初登場1位を獲得するなど、一躍人気バンドの地位を得た彼らだったが、3rdアルバムである本作は世間の目を避けながら自意識の迷路に潜っていくような印象を受ける。

特に " ワールドアパート " ではニューヨークの同時多発テロがモチーフとして使われ、世界から分断される自らの心の悲痛な叫びが歌われる。力の限りを尽くすかのようなエモーショナルな歌声が胸を締め付ける。

遠く向こうで

ビルに虚しさが刺さって

六畳のアパートの現実は麻痺した(" ワールドアパート ")

 

歌詞も暗いものが多く、ジャケットに表れているような鬱屈とした雰囲気がアルバム全体を包んでいる。

内にある闇が僕を呼ぶよ

色のない部屋に戻すように(" 桜草 ")

 

また、プログレ的な曲展開を見せる " センスレス " や、冒頭でドビュッシーの「月の光」を引用したその名も " 月光 " など、ギターロックの範疇で様々な趣向を凝らすような実験精神が垣間見えるのも面白い。

 

そして、今作の「世界 vs. 自分」とでも言える構図は4thアルバムワールド ワールド ワールドにも引き継がれ(ジャケットには例の貿易センタービルが登場し、構図も踏襲されている)、後の政治的志向の強い作品が生み出される流れへと繋がっていく。

 

 

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5. フジファブリック『TEENAGER』(2008)

 

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" 桜の季節 " でメジャーデビューして以降、日本的な叙情性を帯びたひねくれギターロックバンドとしてリリースを続けたフジファブリック。3rdアルバムである今作はその路線に「若さ」や「時間の経過」といったテーマが合わさって、独自のポップセンスがより花開いた会心作となっている。

 

フジファブリックと言えば本作にも収録された " 若者のすべて " が代表曲だろう。もちろん多くの人々に愛される名曲であることは自明だが、それ以外にも " Strawberry Shortcakes " などをはじめとした、志村正彦にしか描けないであろう変態曲の数々も相変わらず炸裂している。

ヒッピーになって荒野を裸で歩きたくなる

なんてイカレたことを言う(" Chocolate Panic ")

上目使いでこちら見たら

まつげのカールが綺麗ね

もひとつ僕のイチゴ食べてよ(" Strawberry Shortcakes ")

 

このアルバムで言いたいことは表題曲でもある " TEENAGER " に全て詰まっていると言ってもいいだろう。10代特有のワクワク感と満たされない思いがリスナーを包んだところで、本作は締めくくられる。

夜には希望がいっぱい こっそり家から抜け出そう

おなかはコーラでいっぱい 朝まで聴くんだAC/DC

それでもいつも物足りない

とにかく君に触れられない(" TEENAGER ")

 

なお、志村正彦は2009年12月24日に自宅で亡くなっており(当時29歳)、2019年はちょうど没後10年にあたる。彼が素晴らしいミュージシャンだったことは、これからの世代にも伝わってほしいと願うばかりだ。

 

 

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6. サカナクション『NIGHT FISHING』(2008)

 

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サカナクションの楽曲は「夜」をテーマにしたものが多いが、本作はタイトルも示しているように、アルバム全体を通して「夜」が貫かれている。

他のアルバムと比べるとエレクトロニックなサウンドはやや影を潜めており、孤独な夜にそっと寄り添うような雰囲気が全体を包んでいる。2ndアルバムながら、叙情的な歌詞世界はこの頃から既に完成されていた。

間空いた君の仕草に

夕暮れで見えるその欠片

君と僕とは流れる雲

月を見つけて一人で遊ぶ(" うねり ")

だけどまた振り返って 何かを確かめて

苦しむふりをして 誰かに背を向けて

読み飽きた本を読んで また言葉に埋もれ

旅に出たくなって 君を思い出して(" ティーンエイジ ")

 

極めつけは " ナイトフィッシングイズグッド " だろうか。中盤ではQueen" Bohemian Rhapsody " のような曲展開から意外なリスペクトも垣間見える。

去年と同じ服を着ていたら

去年と同じ僕がいた

後ろめたい嘘や悲しみで

汚れたシミもまだそのまま(" ナイトフィッシングイズグッド ")

 

本作は上京前の北海道を拠点として制作された最後のアルバム。広大な北国特有の空気感と雄弁さとフォーキーな要素が絶妙に絡み合う様はさすがの一言だ。

 

 

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7. スピッツ『三日月ロック』(2002)

 

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90年代、ゼロ年代、そしてテン年代と着実にキャリアを積み続け、国民的バンドとしての地位を揺るぎないものにしているスピッツ。しかし、様々な解釈ができる歌詞や、ライブバンドとしての鉄壁のパフォーマンスなど、J-POP的に捉えている一般的なリスナーからすると意外と知られていない面も多いのが事実。本作も、そんな「意外な一面」に溢れたアルバムの一つと言えるだろう。

 

サビと思われる部分では「ラララ」とだけ歌われる " 水色の街 " 、架空のバンド「ミカンズ」を設定して作られたという " ミカンズのテーマ " 、打ち込みを導入した " ババロア " 、ドラマ主題歌となった " 遥か " など、シリアスなものから少しふざけたものまで、バランス良くバラエティに富んでいる印象。

ゆとりの無いスケジュールを もう少しつめてディストーション

青いボトルの泡盛を 濃いめに割って乾杯しよう(" ミカンズのテーマ ") 

すぐに飛べそうな気がした背中

夢から醒めない翼(" 遥か ")

 

そして『三日月ロック』というタイトルも相まって、全体的に夜に聴きたくなるような雰囲気がある。三日月のように欠けてしまった心を埋めてくれるような、そんな不思議な力をも持っているアルバム。

 

 

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8. ナンバーガール『SAPPUKEI』(2000)

 

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言わずと知れたジャパニーズオルタナティヴの重鎮・ナンバーガール。後続のバンドに与えた影響は計り知れず、「彼らに影響を受けない方が難しい」と言ってしまえるほどではないだろうか。

 

メジャー2枚目となる本作は、持ち味とも言える焦燥感に満ちた作風がこの時点で最高潮に達しており、ヒリヒリとした感情がリスナーに容赦なく襲いかかる。雑居ビルが立ち並ぶ路地裏での殺人のような、あるいは枯れきった団地でひっそりと息を引き取るような、そんな情景が目に浮かんでくる。圧倒的殺伐。

しかしそんな鬱々とした雰囲気も " TRAMPOLINE GIRL " でフワっとかき消されていく。ここでは誰もが「完全勝利」できるのだ。

翔んでるガール ど真ん中 翔んでるガール

戦いは翔んでるガールの完全勝利

真夜中に狂い翔ぶ あの娘の勝利(" TRAMPOLINE GIRL ")

 

ちなみに、故・吉村秀樹bloodthirsty butchers)が歌詞に登場するなど、しっかりと遊び心も忘れていないのも憎いところ。

禅問答 YOSHIMURA HIDEKI

禅問答 答えはいらん(" ABSTRACT TRUTH ")

 

デカダンスと疾走感が同居するダークな仕上がりに取り憑かれてしまう、そんな暗い魅力に満ちたアルバム。

 

 

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9. スーパーカーFuturama』(2000)

 

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2nd『Jump Up』エレクトロニカに接近し、4th『HIGHVISION』では大胆に打ち込みを導入したスーパーカー。本作はそのちょうど中間に位置するアルバムであり、ロックとエレクトロニカ黄金比率で溶け合うサウンドメイキングには目を見張るものがある。 

 

歌詞に関しては、メッセージ性がある曲と、よく分からない言葉の羅列のような曲と、両極端を行き来している。にも関わらず、一つのアルバムとして統一感を出し、全体の流れも違和感なく聴かせてしまう彼らの手段には脱帽せざるを得ない。

やさしさにいい加減でいて

むなしさにいい加減でいて

俺はこう言い続けるんだ

「何をどうも出来なくたって胸に愛とあつい想いを」

君にそう言い続けるんだ

俺はそう、いい加減なんだ(" Karma ")

灰色クライムフルニューウェーヴ MEEeEEEE.(" Blue Subrhyme ")

 

ちなみに、アルバムタイトルは「future(未来)」と「panorama(全景)」を合わせた造語。まるでパノラマ写真のように全方位に広がる未来に希望を抱いたり失望したり、その両者が限りなくプラマイゼロでも、それでもなんとかプラスにほんの少し針が傾いているような、そんな危うさの中で生きている自分たちを精一杯肯定してくれる。本作はそんな不思議なあたたかさに満ちている。

 

 

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10. Syrup16g『HELL-SEE』(2003)

 

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ゼロ年代の日本のロックシーンの中でも、Syrup16gはとりわけカルト的な人気が根強い印象。そして数あるディスコグラフィーの中でも、やはり本作をベストに挙げる人は多いだろう。

 

胸を掻きむしるようなギターのイントロから幕を開ける " イエロウ "(家籠=引きこもり / yellow=臆病者 のダブルミーニング?)、そして " 不眠症 " 、果てには " 末期症状 " と、冒頭から内省的かつ鬱屈とした雰囲気がアルバムを包んでいく。その様は引きこもりがいたずらに症状を悪化させていくようで圧倒的に不健康であり、まるで救いようがない。

こんな気持ちはもういいよ

くるったままの遠近法

夜になるたびwaiting for

のたうち回って不眠症(" 不眠症 ")

しかしシロップの魅力と言えば、その救いようのなさにこそある。これ以上陥りようのないほど堕ちた様を突きつけることで、結果リスナーに寄り添うことに成功しているのだ。本作は特にそれが顕著と言えるのではないだろうか。

 

五十嵐隆という男はつくづく不器用だ。しかし僕らはそれを愛さずにはいられないらしい。

 

 

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長々と書いてきた訳だが、やはり自分にとってゼロ年代の音楽が特別であることを改めて実感した。どんなにどん底にいた時でも、自分には音楽があった。

そして、今回挙げた作品はどれもサブスクリプションサービスが登場する前に出会ったものであるため、より思い入れが強いのも事実だ。知らない音楽にそう簡単には辿り着けなかった時代に聴いたものだからこそ、特別な存在として今日に到るまで心の中で在り続けている。

 

しかし時代は変わった。新しい出会い方で、新しい音楽に出会っていく。それを受け入れて、楽しんでいきたいところだ。

 

最後に、人生で初めて自分で買って観に行ったライブのチケットの写真を載せて締めくくる。10年前と比べたら、随分と遠くへきたものだ。

 

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(taku / おすしたべいこ)

 

 

TOWER VINYLとディスクユニオンは何が違うのか?

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2019年3月21日、タワーレコード新宿店の最上階にオープンしたTOWER VINYL SHINJUKUタワレコ初のレコード専門店であり、昨今のアナログブームも手伝って、音楽ファンから注目されている。

 

…と、ここで気になるのが、ディスクユニオンとの違い。やはりアナログを手広く扱うレコード専門店と言えば、その実績も含めてディスクユニオンを連想する方は多いはずだ。今回のTOWER VINYLは何が違うのか。実際に足を運び、個人的な所感を簡単にまとめてみた。

 

 

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  • ターゲット層

 

こちらの記事を読んでいただければTOWER VINYLの概要は理解していただけると思う。これを前提に話を進めると、TOWER VINYLはやはりその開放的な空間が最も顕著な特徴と言える。

 

ディスクユニオンは基本的に窓もなければ通路も狭い店舗が多く、非常に密室的だ。それが「隠れ家」的な雰囲気を出しており、その中で目当てのレコードを探す様はさながら「宝探し」のような感覚があるので、当然それを好むユーザーが多いのも事実だろう。

しかし、それはある意味で敷居の高さにも繋がっており、狭い通路は人とすれ違う際にストレスを感じる場合もある。総合して、所謂「玄人好み」の傾向にあるのがディスクユニオンだろうか。

 

一方で、TOWER VINYLは陽の光が差し込む開放的なフロアで通路もゆとりがあり、レコード初心者でも安心して見回れる空間になっている。敷居の高さはまるでなく、何より「下の階でCDを買ったついでにちょっと行ってみよう」という動機づけにも繋がるのが大きい。

 

 

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  • 棚(什器)の深さ

 

商品を見ていてまず目についたのが、レコードを入れている什器が浅いことだった。写真を見てわかる通り、レコードのジャケットの約半分がはみ出すようになっている。

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もちろんこれは設計ミスではなく、恐らく「パッと見て何のレコードか分かりやすくする」「見栄えを良くする」という狙いと、「ジャケットの底が抜けないようにするための配慮」という意味合いもあるはずだ。

 

ディスクユニオンの店頭には「レコードをストンと落とす行為は底が抜けるのでやめてください」といった旨の注意書きが貼られていることがある。深い什器に大量に詰め込まれたレコードの中からお目当てのものを探すとなれば、当然レコードを持ち上げてジャケットを確認する必要があり、それを戻す際に重力に任せて「ストン」と落としてしまうのはしばしば見られる光景だ。これにより中の盤の重さでジャケットの底が抜けてしまうことに繋がる(ちなみにディスクユニオンでは底抜け防止のために底に厚紙を入れて対策している)。

 

そこで、什器を浅くすればレコードを持ち上げる必要はなくなり、パタパタと倒していくことでジャケットを簡単に確認することができる。特にレコードの扱いに慣れていない初心者をターゲットとしているTOWER VINYLであれば、この対策は当然と言えるだろう。

 

 

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  • 商品に付いているタグ(カード)

 

これは特に中古品に言えることだが、TOWER VINYLでもディスクユニオンでも、その商品の状態(コンディション表記)やアーティスト名/アルバム名や規格番号などの詳細情報、そしてバーコードが記載されたカードが個別につけられており、管理されている。

 

ディスクユニオンでは商品の状態がアルファベットで記載されており、加えてその商品がどういった作品なのか(バンドのソロ作品、発表年代、プライベート盤、その他おすすめポイント etc.)がメモ程度に記載されていることが多く、参考になるものが多い(写真はCDだが表記形態はレコードも同じ)。

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対してTOWER VINYLでは、同じく状態がアルファベットで記載されているものの、それがどういう状態なのか非常に連想しづらい表記形態になっている。

そしてどういった作品なのかという点においては一切記載がなく、そのレコードが何なのか知らない場合は自分で調べる必要がある。

ただ、これに関してはこの先在庫の実績を積んでいけば情報が蓄積されるため、記載されるようになるのは時間の問題かもしれない。

 

 

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以上が個人的に感じたTOWER VINYLとディスクユニオンの違いである。最初にTOWER VINYLオープンの知らせを聞いた際は、期待感を抱いたと同時に「ディスクユニオンと同じような店舗を作って大丈夫なのか?」と半ば懐疑的だったが、実際に足を運んでみるとしっかり差別化がされていた印象。

 

このストリーミング全盛期の時代に真逆のアナログブームが来るのは必然と言えるだろう。スマートフォンで簡単にアルバムを追加する手軽さもいいが、出かけたついでにちょっとレコードを手に取ってみることで新しい発見もあるかもしれない。まだまだレコードショップには未来があると信じずにはいられない、そんな気持ちを新たにした。

 

(taku / おすしたべいこ)

 

オタク史上、最もかなしかった夜

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かなしかった、なんて言いたい訳がない。そもそもめでたい日であるはずだし、こんな事にあえて言及する必要はないのかもしれない。

しかし、やはり言わずにはいられなかった。

 

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2019年2月3日、この日はクマリデパートのワンマンライブ「千客万来!おいでよ!こころのデパート!」だった。場所は渋谷VISION。早くも新たなキラーチューンとなった最新曲 "シャダーイクン" や各メンバーのソロ曲披露、そしてフルアルバムリリースの予告。ソールドアウト公演だったこともあり非常に充実したライブであり、クマリデパートが新しい季節に突入することを告げる素晴らしいパフォーマンスを魅せてくれた。くれたのだが…。

 

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思わず目を疑った。メンバーのMC中にも関わらず、それを全く聞かずに騒いでいる集団がいたのだ。

 

最後列でライブを観ていたため、観客の様子はよく見渡せる方だった。その集団もかなり後方にいたが、何を話しているのかまでは詳しく分からなかった。とにかく不快なほど声が大きく、MCを遮ってしまうほど。中にはステージに背を向けている人もいた。そしてMCが明けてライブが再開しても、あまり楽しんでいる様子も伺えなかった。

開演前からやや騒がしく、少し心配はしていたが、その懸念を遥かに上回るレベルの騒音。あれは完全に騒音だった。

 

ステージ上のメンバーからは、彼らの様子はどう映っていただろうか。後方だったためあまり声は聞こえていなかったかもしれないが、特にMC中は会場が明るくなるため、その様子は何となく見えていたとは思う。

 

彼らはこの場所に何をしに来ていたのだろうか。とてもかなしい気持ちになってしまった。少なくともチケット代を払ってライブに来ているのであればファンであると思われるが、ただ仲間内で騒ぎに来ているだけのように思えてしまった。会場前方で観ていた人はもしかしたら気づいていなかったかもしれないが、彼らの周囲にいた人はきっとものすごく迷惑がっていたと思う。ライブと関係なく騒ぐくらいなら来なくていい。

 

後に聞いて知ったことだが、最近も似たようなことがあったらしい。2019年3月10日に行われた、ヤなことそっとミュートとNECRONOMIDOLの2マンライブ「BEYOND vol.3」。この日もMC中に騒ぐオタクがいたらしく、とても迷惑だったという。クマリデパートの時と同一の集団かどうかは定かではないが、こうも立て続けに起こってしまうものなのだろうかと、ひどく疲れてしまった。

 

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曲に合わせてオタ芸を打ったりコールしたりするのはそれぞれの楽しみ方だし、それがアイドルの文化であることは間違いない。しかし、MC中に大声で関係のない話をするのはどう考えてもおかしいし、全力でライブをするアイドルたちの気持ちを踏みにじることになる。いや、真摯に応援しているオタクたちの気持ちをも蔑ろにしていると言っていいだろう。

そういった所謂「害悪ファン」(ファンと呼ぶのも躊躇いたいが)の存在は、当然ライブの動員にも影響してくる。「ファンの質が悪いからライブに行くのはやめよう」となる。当たり前だ。そしてこれは別にアイドルに限ったことではない。

 

昨今のアイドル業界は多様化を極めているのは言うまでもない。王道アイドルからシューゲイザー、ポストロック、ラウドロックニューエイジ、メタル、サイコビリープログレ…など、様々な音楽ジャンルのアイドルたち(俗に言う「楽曲派」)が存在し、盛り上がりを見せている。

その一方で、オタクも多様化を見せており、「コミュ障で根暗でダサい」というようなかつてのオタク像はもはや通用せず、所謂フェスブーム以降の「陽キャ」と呼べるような人々もアイドルの現場に出入りしている。

 

アイドルオタクは今まさに過渡期を迎えているのだろう。それぞれが心地よく楽しめる空間をつくる配慮の心があるかどうかで、アイドル業界も変わっていくように思う。襟を正さなければならない。

 

(taku / おすしたべいこ)

 

 

 

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2019/05/07追記:

 

先日、クマリデパートの公式Twitterにて、以下のようなアナウンスがありました。

MC中の迷惑行為に関しては運営側も認識していたようで、このようにはっきりと「禁止」と宣言していただけたことは、本当に嬉しく思います。

この記事も運営やメンバーにも届いていたようなので、僕としても書いた甲斐がありました。今後とも、楽しく平和な現場であることを願います。

 

 

或るシュルレアリストの午後 - 君島大空『午後の反射光』レビュー

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レビューって難しい。レビューを書く度にそう思う。それに加えて、今から数週間前に初めて名前を聞きましたレベルのアーティストについて綴ろうとしている。浅はかな知識で挑むものだから緊張する。どうか甘めにみてほしい。

 

最近ツイッターでよく目にするシンガーソングライターの名前があった。

 

君島大空

 

本名だそうだ。美しい名前だと思った。しかし、あまりに賛美されているものだからあえて聴かないでいた。(変な意地を張って。)

 

ふとリツイートで流れてきたジャケット写真。シュルレアリスムあるいは構成主義(どちらも20世紀の芸術運動)を思わせるようなコラージュ。内容を読み、あの君島大空のデビューEP『午後の反射光』だと知る。

私はこういうアートワークに弱い。

やはり聴いてみるか、と『午後の反射光』を聴いた。

 

透き通った中性的な歌声と妙に落ち着く心地良いメロディー。夢の中にいるような感覚に襲われる。

 

一曲目のinstrumental「interlope」は美しいギターとピアノ、機械音の融合。interlopeは(不法な)侵入という意味を指す単語だが、この上なく気持ちの良い侵入だ。(一瞬RadioheadのOK Computerを聴いているような錯覚に襲われた。)

 

表題曲「午後の反射光」はどこか日本的かつ情緒的なイントロから始まる。綺麗なメロディーと愛らしい歌詞が心を掴んで離さない。午後の遊園地、溢れる日差しのイメージやスパンコールのようなキラキラした眩い光が散らばるイメージ、様々な情景がコラージュされたかのような楽曲だ。

キリンジのエイリアンズを想起させるようなAメロは既に名曲を暗示させるかのよう。

 

「遠視のコントラスト」はノイジーなギターが印象的なメロウでサイケデリックなチューン。格好良い。「午後の反射光」よりもより一層明確な反射した光のイメージを想像してしまう。

焼きつくだけじゃ 
触れさせて
もう一度 さあ
まだ見えない? 僕の所為で笑ってよ!
乱射した言葉は虚空を舞う
 
誰の所為にしたい?

少し歌詞が捻くれているのもまた良いと感じるのは私だけかな。

 

爽やかで優しい雰囲気の楽曲「瓶底の夏」は晴れた夏の日に縁側でサイダー飲みながら聴きたい。宇宙的なサウンドとピアノの調和も印象的で中毒性がある。

 

最後の曲 「夜を抜けて」は暖かい気持ちになるスローなバラード。ギターのアルペジオがただ美しい。静かで霞みがかったイメージがこのアルバムの最後にとてもよく合っていると思う。歌詞も詩的で儚げで綺麗だ。

 

 

興味を持ってインタビューを読んでみる。

 

例によって、先述のシュルレアリスムに影響を受けているとのこと。アンドレ・ブルトンの名前が出てきていて驚いた。ツイッターのプロフィール欄にも通底器(ブルトンの著書)と記載がある。

 

私は、実に、歴史的な事象から影響を受けている人に弱い。

 

知らない人のために少しだけ解説を。

アンドレ・ブルトンはフランスの詩人でシュルレアリスムの提唱者。1924年シュルレアリスム宣言」を発表した。

 

ブルトンによれば、シュルレアリスム(超現実主義)とは精神の自由や生きることの自由を目指すために、夢、驚異、想像、無意識、狂気、偶然、に注目する。

その方法は、直接浮かんだ言葉やイメージを、何ら修正せずに書き取ること、それこそが純粋なオートマティスム(自動記述)であって、思考の実際の動きを表現する。

末永照和監修『カラー版 20世紀の美術』美術出版社,2000年,p.63より

 

先程のインタビューでは、君島大空が、自動記述的に歌詞を書いている、とさりげなく語っているのだが、自動記述はシュルレアリスムの基礎なので、君島大空は正真正銘のシュルレアリストだ。(大決定!)

 

シュルレアリスムの思想の下で無意識幻想を可視化した作品が数々生まれたように、

夢の中にいるような感覚を与える『午後の反射光』もまた、シュルレアリスムのそれらの作品と相違ないのかもしれない。

 

 

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ところで、実はシュルレアリスムに影響を受けた日本のミュージシャンは多い。

代表的なところだとBUCK-TICKが挙げられる。その他PELICAN FANCLUBや‪THE NOVEMBERS‬(正確にいえばこちらはダダイズムかな)など。

20世紀の芸術運動に関心を持っているミュージシャンは意外にいるわけだが、作品を作る上でその理論を反映させているミュージシャンは数少ないので君島大空は貴重な存在だ。(君島大空の場合は偶然なのか必然なのか私には分からないけれども。)

 

なんだか、私はすっかり君島大空を好きになってしまったみたいだ。

 

CINRAのインタビューではヤン・シュヴァンクマイエルチェコの映像作家)や岡上淑子(日本のコラージュ作家)について言及しているのも興味深い。

 

現代に生まれたシュルレアリスト、君島大空。私の愛してやまないアイドルsora tob sakanaの新譜にも参加しているとのことでそちらも要チェック。今後の活躍に胸を膨らませるばかりだ。

(miku)