【1曲レビュー】Luby Sparks "Somewhere"
Luby Sparksが約1年ぶりのシングル『Somewhere』をリリースした。
2018年1月、『Luby Sparks』でデビューを飾った彼ら。スーパーカーの『スリーアウトチェンジ』を「意図的」になぞるような青くドリーミーなシューゲイズサウンドを聴かせたそのアルバムは、YuckのMax Bloomと共に全編ロンドンで制作されたことでも話題となっていた。自分にとっても、2018年を代表するポップアルバムとして今なお鮮烈な輝きを放ち続けている。
同じ年の11月にはEP作品『(I'm) Lost in Sadness』をリリース。前作のポップな路線から一転、4ADの系譜を継ぐ耽美派に傾倒。タイトルからして直球の"Cherry Red Dress"など、音楽ファンを唸らせたのも記憶に新しいだろう。
そして2019年9月。ミックスにはお馴染みのMax Bloom、マスタリングにはJosh Bonati(Beach FossilsやWild Nothingなどを手がけるエンジニア)を迎えて制作されたシングル『Somewhere』をリリース。4AD路線を踏襲し、80年代のゴシックでドリーミーなサウンドを「今」の感覚で鳴らしたポップな1曲となっている。
今回最も特筆すべきなのは、ギターのサウンドメイキングだろう。なんと、90〜97年にCocteau Twinsのギタリスト/エンジニアとして活躍し、ソロプロジェクト・FLat7としても音源をリリースしているTate Mitsuoがプロデュースしているのだ。90年代当時のエフェクターなどの機材を使用することで、まさしく「4AD的」なサウンドを作り出すことに成功している。
そのCocteau Twins直系とも言える耽美なギターサウンドが2019年に蘇っている様は、時代を超え、まさしくリスナーを「どこか(somewhere)」へいざなうかのようだ。そしてその「どこか」というのは、天国か、あるいはラスベガスか。
MVでは、そのサウンドとシンクロするようなレトロな質感と煌びやかな光が眩しい。エリカ・マーフィー(Vo.)の絶対的な存在感や5人のファッションなど、バンドの美学をしっかりと可視化している。
また、今回のジャケットはロンドンのシューゲイズポップバンド・The History of Apple Pieの『Out of View』へのオマージュとなっている点も見逃せない。
Natsuki Kato(Vo. Ba.)曰く、The History〜のドラマーがYuckのサポートとして参加した際に本人に会ったことがあり、「音も見た目も僕のバンドに似ている」と言われて以来意識するようになったらしく、今回のジャケットのデザインに至ったようだ。
個人的に、音楽における「オマージュ」というものに対して非常に弱い。それが、好きな音楽どうしが繋がる瞬間であれば、尚更である。ジャケットもそうだが、サウンドにしても先人たちのエッセンスがふんだんに盛り込まれており、そこには「愛」しかない。こういうものには滅法弱いのだ。
ジャケットにしても、サウンド(あるいはスタンス、アティチュードとも言えるか)にしても、好きなものや影響源への敬意を払い、ただの模倣では終わらせずに完全に「自分たちのもの」にしている点が、やはり彼らの恐るべきところだ。その咀嚼力の高さというか、バランス感覚というか、センスの良さというか。デビュー以来それらにますます磨きがかかっている。懐かしいようで、新しい。まさしく「今」の音だ。
今後リリースされるであろう2ndアルバムが楽しみで仕方がない。一体どんな顔を見せてくれるのか、存分に待ちわびたいと思う。
(taku / おすしたべいこ)